(ボネ神父伝9)◆3-3、変なやど屋
江藤きみえ『島々の宣教師 ボネ神父』、9
第1部 選ばれた一粒のたね ある宣教師の生いたちと布教
◆3-3、変なやど屋
しかし、まもなく、若い宣教師は、駅から人力車の車夫が案内してくれたやど屋が、妙に気になりはじめました。やど屋といって頼んだはずなのに、どうもやど屋らしくないからです。
また、かれは案内されたへやにはいろうとして、ひどい目にあいました。一撃ガン!と、目から火が出るほどカモイに頭をぶっつけたのです。
さて、痛さをこらえて腰をおろしていると、背後ですっと唐紙のひらく気配がしました。おどろいてふり返ると、ひとりの女がすそを扇のように床の上にひろげて立っていたのです。電燈の反射をうけた白いふすまをバックにして、真白に厚化粧した顔と、はでな着物が、花が咲いたようにあざやかでした。
はっと顔あからめた司祭は、やがて落ちついてくるとかの女の手と首は小麦色をしているのに、顔だけが壁のように白いので、この人はべつべつのからだをつなぎ合わせているのじゃないかと、妙な気がしました。自分がやど屋と思って連れてゆかれたところが、どんなところかをとうとう悟ったかれが、早々にそこを退散したことは、いうまでもありません。
外に出ると、すみきった秋の空に星が美しくかがやいていまし々かれには上気したほおを冷たくなでてすぎる夜風が、あの不潔な印象をはらいのけてくれるかと思われるほど、すがすがしく感じられたのです。