9-2 エネアスのイタリア到着と戦い

『古代ヨーロッパ 世界の歴史2』社会思想社、1974年
9 ローマ建国の伝説と事実
2 エネアスのイタリア到着と戦い
他方エネアスの一行は、嵐に悩まされながらシチリアに漂着し、さらにイタリアのティベル河口をめざして進んだ。
その途中彼はクマエでアポロンの神殿にもうで、冥界(めいかい)にいる父をたずねさせてほしいと願った。
エネアスは巫女(みこ)のシビラに伴われて冥界にはいった。
彼はそこでいろいろな死者にあうが、自殺した人々の影のなかに、思いがけずディドーを見出した。
彼は涙を流し、真情をこめて、「わたしがおまえのもとを去ったのが、おまえにとってこれほど悲しいことになろうとは、信じることができなかった」と語りかけた。
しかし、もはやディドーは心を和らげず、彼から目をそむけて、憎しみの態度を見せ、姿を消した。
エネアスはそのあとを、心を痛め、涙しながら、いつまでも見送っていた。
その後、エネアスは分れ道につく。その道の左のほうの地獄からは、罰に苦しむ罪人たちのうめき声がきこえてくる。
彼は良い死者の住む楽園(エリジューム)のある右に道をとる。
道はやがて、冥界の王プルートーの宮殿につく。
彼はその門に、死者の女王プロセルピナにささげる金葉の小枝をさした。
そのあと楽園(エリジューム)にはいり、亡き父アンキセスの影に会う。アンキセスは、エネアスが地上にやがて建設するローマの国家と、その後に出現する主要な人物、とくにアウグストゥスの輝かしい業績について予言する。
しかしエネアスがその前にまず遭遇し、克服しなければならぬ戦いと苦難についても告げる。
アンキセスはエネアスとシピラを地上の世界への出口である象牙の門まで連れてゆき、二人を地上に送り帰した。
そののちエネアスはまた部下の者といっしょに船に乗り、イタリアの沖あいを北上してティペル川に着く。
彼は川をさかのぼり、その東岸、ラテン人の王ラティヌスのいる土地に上陸する。
エネアスは王に使いをおくり、その国に迎え入れられることを求める。
王はこれを許したばかりか、予言に従い、娘ラヴィニアをエネアスの妻にと申し出る。
しかし娘の母アマータはルトゥリ族の王トゥルヌスに娘を与える約束をしていた。
ジュノーはエネアスを苦しめることをなおやめず、復讐の女神のアレクトーに命じて、アマータとトゥルヌスをそそのかした。
二人はエネアスとの平和に反対し、ここにラティウムの支配をめぐってトロイア人とルトゥリ人、ラテン人とのあいだに戦端が開かれ、一進一退の激しい戦いが続いた。
トゥルヌスはラティヌス王と王妃アマータのとめるのもきかず、エネアスと一騎打ちを約束する。
トゥルヌスの妹ユトゥルナは兄を助けるためルトゥリ人の戦意を駆りたて、このためごたごたが起き、これをとめようとしたエネアスは負傷して、ひとまず退かねばならなくなった。
しかし彼の傷はヴィナスによって癒(いや)され、まもなく戦場に復帰することができた。
だがこの間にトゥルヌスは行くえ知れずになっていた。
エネアスはトゥルヌスを探しあぐねて、ラテン人の都ラウレンティウムを攻撃する。
トゥルヌスが死んだと思ったアマータは絶望して縊(くび)れて死んでしまう。
そこで姿をかくしていたトゥルヌスは、はじめてエネアスとの一騎打ちに現われたが、エネアスに組み伏せられた。
トゥルヌスがしきりに嘆願するので、はじめはエネアスは同情して助命してやろうという気になっていたが、トゥルヌスがエネアスの戦友バラスを殺して奪った武具を着ているのを見て憤り、ついにこれを殺した。
こうしてトゥルヌスの死後、戦いは終わり、トロイア人とラテン人とは和平し、やがて彼らは一つの民族に結合する。
エネアスはラヴィニアをめとり、新しい都市を建設した。彼はその都を彼女の名にちなんでラヴィニウムと名づけた。