(ボネ神父伝17)悪霊のわざ
江藤きみえ『島々の宣教師 ボネ神父』、17
第1部 選ばれた一粒のたね ある宣教師の生いたちと布教
◆4-8、最初の布教地・奄美大島
このように悪魔もやはり神の権力のしたにあるので、かれらがいかにじゃまをするつもりでも、かえってそれが神のご計画の道具となってしまいます。こうして悪魔までも、その意志とは反対に、救いに利用されているという事実が、ボネ神父さまの宣教のなかには、まだいくつでも伝わっています。その一つとして、かれと仲のよかったある神父さまが、つぎのような話をしてくださいました。
大島には、ボネ神父さまのほかになお数人の宣教師がおとずれて、熱心に布教をしていましたが、ボネ神父さまの特に親しい友人としてF神父さまが、山一つへだてた向こうの教会で働くこととなりました。
あるとき、宣教師仲間のJ司祭が過労のため急に病にたおれたので、ボネ神父さまは、F神父さまと交代でかれにご聖体をさずけに行っていました。かれの番だったある金曜日の朝、神父さまは、山の上でひょっこりF神父さまに出あったのです。F神父さまは、いつものようにまっすぐかれをみませんでしたが、たった今、自分がJ司祭にご聖体をさずけてきたところだ、といいました。そしてずるそうなほほえみを浮べると、暑いから帰っていっしょにビールでも飲もうではないか、と誘ったのです。
しかし、心のやさしいボネ神父さまは、「せっかくここまできたから」といって断り、こんどは病人をなぐさめるために、汗をふきふき山をおりてJ司祭の家にゆきました。しかし不思議なことに、J神父さまは、だれも、司祭はたずねてこなかったといったのです。このときボネ神父さまは、ハッと気がついて、山の上で出あったF神父さまは、悪魔のしわざだったとさとりました。
この事件によって、みえない世界の現実を、まざまざと感じたかれの心は、火のように燃えあがり、宣教への熱望はいっそう高まってゆくばかりでした。
また、ある時は、家のなかに始終小石がふってきて悩まされるからと、未信者の家から祈りを頼まれたこともありました。神父さまがその家に行ってみると、さすがにそのときは悪魔もいたずらをしませんでしたが、どこからともなく降ってくるというその石は、たくさん家のなかにおちていました。神父さまは、この家に十字架を置いて帰りましたが、それきり、この不思議な現象はとまり、その家族みな、まことの神を信ずるようになりました。
しかし、まだボネ神父さまの前には、大きな問題がのこっています。それは、迷信と、まことの信仰との区別をあきらかにすることです。